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お知らせ

2022.03.11

お知らせ

ビフィズス菌が持つ効率的なアラビアガム分解の仕組みを解明

~ビフィズス菌がアラビアガムを利用するために必要なもう一つの鍵酵素の発見と作用メカニズムの解明~

 農学部食料生命科学科応用糖質化学研究室の佐々木 優紀さん(大学院連合農学研究科外部リンク3年)、藤田 清貴准教授、北原 兼文教授らの研究グループは、理化学研究所の石渡 明弘博士、近畿大学の芦田 久教授、森永乳業基礎研究所との共同研究により、アラビアガムを利用してビフィズス菌が増えるために必要なもう一つの鍵酵素を発見し、その作用メカニズムを明らかにしました。

 アラビアガム(アカシアゴム)はアカシア属の植物の樹液の粘質物です。増粘多糖類やコーティング剤として食品や医薬品として利用されている高分子多糖類です。
 現在、腸内環境を健全に維持すること、また、ヨーグルトやサプリメントとしてビフィズス菌そのもの(プロバイオティクス)や、そのエサとしての難消化性オリゴ糖(プレバイオティクス)を摂取することの重要性が明らかになっています。アラビアガムは特定のビフィズス菌(Bifidobacterium longum)を増やすプレバイオティクスの一つとして働くことが分かっており、「進化型プレバイオティクス」「持続型プレバイオティクス」としてサプリメント用途で販売されています。
 以前、私たちは、ビフィズス菌B. longumを増やすために必要不可欠な鍵酵素「GAfase」を世界で初めて発見しました。GAfaseはアラビアガムの末端の二糖を切断する酵素です。この酵素によって切り出されたオリゴ糖を利用することでビフィズス菌が増えるだけでなく、切り出すことで”他の酵素”がアラビアガムの糖鎖の内部にアクセスしやすくなることでより多くのオリゴ糖を獲得できるようになることを明らかにしました。しかし、 “他の酵素”の詳細は分かっていませんでした。

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図1:B. longumが保有するアラビアガムAGP分解酵素

 本研究は、アラビアガムの複雑な糖鎖構造を分解する能力が、ビフィズス菌の特定の菌株が持つ鍵酵素「GAfase」と共に存在する「BlArafE」に依存したものであることを詳細に解析したものです。「BlArafE」とは、アラビアガムAGPの修飾糖であるL-アラビノースを分解するα-L-アラビノフラノシダーゼの一つです。この酵素はアラビアガムAGPに付加されたα1,3結合とα1,4結合の両方のL-アラビノースに対応するため、一つの酵素タンパク質にGH43_22型とGH43_34型の二つの触媒部位を持つマルチドメイン酵素として働くことで、アラビアガムAGPの分解を効率的に進めることができます。これらの酵素とAGPの主鎖を分解する酵素「Bl1,3Gal」の計三つの酵素が組み合わされることにより、オリゴ糖が切り出されB. longumに利用されます。興味深いことに、残された4糖はビフィズス菌には利用されず特定のバクテロイデス属細菌に利用されることも明らかにしました。これは、多彩な菌種から構成される複雑な腸内細菌叢において、共生関係があることを意味しています。

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図2:B. longumの菌体表層酵素によるアラビアガムの効率的な分解


 プレバイオティクスとしてのアラビアガムを複数の腸内細菌の協同作用により効率的に利用する姿が見えてきました。これにより、アラビアガムがもたらす腸内細菌叢の変化が「どのように」引き起こされているかの一端を明らかにすることができました。しかし、現在は協同作用の一端が明らかになった段階です。今後さらに研究を積み重ねていくことで、個人対応型の栄養学に基づいた食物繊維やオリゴ糖の開発につながることが期待されます。この研究成果は、米国科学雑誌「Applied and Environmental Microbiology」に掲載されました。


【タイトル】
Mechanism of cooperative degradation of gum arabic arabinogalactan protein by Bifidobacterium longum surface enzymes
【著者】
Yuki Sasakia, Masahiro Komenob, Akihiro Ishiwatac, Ayako Horigomed, Toshitaka Odamakid, Jin-Zhong Xiaod, Katsunori Tanakac,e, Yukishige Itoc,f, Kanefumi Kitaharaa,g, Hisashi Ashidab,h, and Kiyotaka Fujitaa,g #
a鹿児島大学連合農学研究科, b近畿大学生物理工学研究科, c理化学研究所, d森永乳業基礎研究所, e東京工業大学物質理工学院, f大阪大学理学研究科, g鹿児島大学農学部, h近畿大学生物理工学部, #責任著者
【掲載誌】
Applied and Environmental Microbiology, 88 (6), e02187-21(2022).
【DOI】
10.1128/aem.02187-21外部リンク

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