鶏肉・鶏卵の生産量が増加傾向にありますが、肉用鶏や採卵鶏のヒナを生産する孵化場の戸数は年々減少しています。孵化場数が減少し、集約化が進むと、孵化場から生産農場までのヒナの輸送時間が増加する可能性が考えられます。一方、孵化直後のヒナは、腹腔内に卵黄嚢由来の栄養素が残存しており、それらを生命の維持に必要なエネルギーとして利用できるため、一般的に孵化場から生産農場での輸送期間中の飼料給与は必須とされていません。
近年では、早期の飼料摂取が重要視されており、孵化後のヒナに対する飼料給与の開始時期がその後の成長速度にどのように影響を及ぼすかについて明らかにされてきています。本研究室では、孵化後の飼料給与の開始時期と「鶏肉・鶏卵の品質」との関連を科学的に検証しています。
鶏肉は、酸化されやすい不飽和脂肪酸を多く含みます。鶏肉中の脂質が酸化されると、臭気の発生、水分の漏出(ドリップ)、変色、鮮度の低下など、品質の低下を引き起こします。これまでに、肉用鶏ヒナの孵化後の飼料給与の開始を実験的に2日遅らせると、孵化直後から飼料給与した同日齢の個体と比較して、骨格筋中の抗酸化酵素の遺伝子発現量が低くなり、骨格筋中の資質過酸化物量が増加することを明らかにしました(Animal Science Journal, accepted)。また、飼料給与の遅れは、出荷日齢の骨格筋における抗酸化酵素の遺伝子発現の低下、過酸化物量の増加、ドリップロス(鶏肉からの漏出する水分量)の増加、ならびに味覚特性の変化(旨味の低下)と関係することを明らかにしました(日本畜産学会報 89, 191-198. 2018)。現在は、飼料給与の開始の遅れが、骨格筋の抗酸化酵素の遺伝子発現量を低下させるメカニズムについて引き続き研究しています。
また、採卵鶏のヒナへの孵化後の飼料給与の開始を実験的に2日遅らせると、産卵開始日齢には影響を与えませんでしたが、産卵開始後(24週齢時)の血漿中の活性型25-ヒドロキシビタミンD3濃度を低下させ、大腿骨中のカルシウム含量を有意に減少させること、ならびに卵殻重量の減少が起こることを明らかにしました(日本家禽学会誌56, J1-6)。